淀川キリスト教病院の新たな『食と健康医療』への取組み

2013年4月3日

他の病院にはまだない外食・給食産業と連携した「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営とさらなる拡大、そして宗教食への取組み

淀川キリスト教病院では、「ドクターズキッチン構想」への取組みをスタート致しました。まずは病院の移転を機に、日本で初めての試みとなる「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営や宗教食への取組みを外食産業、給食産業と連携したサービスを始めました。これは通院患者や地域在宅へも医療食や健康食の提供、配膳するための方法の一つとなります。

そのほか、昨年11月1日には、アジア初となるこどもホスピス病院を開設するなど先進的な取組みを次々と実現していることでも話題となっています。

全ての事業が移転と同時期のスタートとなり、基盤整備ができたところとのことでしたが、取材を通して当院の積極的な事業展開、意欲を伺うことができました。

今回の取材記事では、ロイヤルホールディングスグループと連携した「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体経営、宗教食への取組みについて、宗教法人淀川キリスト教病院 栄養管理課 課長 大谷幸子氏に伺いました。

聞き手は、新産業文化創出研究所 所長の廣常啓一氏、関西電力株式会社 お客さま本部法人グループ 副部長 辻田 紀子氏の二人です。廣常氏は、この淀川キリスト教病院のドクターズキッチン構想への参画やそのための食事システムの一体運営、宗教食対応の基本計画や委託事業者選定などのコンサルティングに関わりました。

「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営 ~健康の発信の中心とするために

廣常:
私は淀川キリスト教病院の基本計画に関わりましたので、ここで色々お伺いするのは少し違和感を覚えますが(笑)、実際に始められてからの感想なども含めてお伺いしたいと思います。

淀川キリスト教病院では、今まで他の病院では行ってこなかったような「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営を始められましたが、先ずはそのあたりの特徴からお聞かせください。

大谷:
私達は、総合的に健康意識の発信の中心でありたいという願いから、このような一体運営を始めました。

昨年7月に移転し、新病院をオープンした際、「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営ということで、同じ業者さん、ロイヤルホールディングス株式会社に担当していただくことにしました。

お陰様で、栄養士が今までに作ってきた病院給食のレシピを使って、外来で診療を終えた患者さん、あるいは未病の方に院内のレストランで治療食を体験していただけるようなシステムを構築することができました。外来食堂(院内のレストラン)では、患者さんとご家族の方が一緒に食べることができます。将来的にはお部屋でも一緒に食べていただけるような準備も進めています。

外来食堂とその厨房

廣常:
職員食堂などの反応はいかがでしょうか?新しくバイキングスタイルにされましたね。

大谷:
職員食堂では患者食と同じものを提供しているわけではありませんが、健康志向のメニューに取り組んでいます。従業員の健康は、患者の健康と同様に大切なテーマだと考えています。この職員食堂は、従業員の『食の健康教育の発信の場』としたいと思っています。

バイキングスタイルの評判も上々ですが、今後、選び方や摂る量、選ぶものの指標となる表示の工夫も充実させていきたいと考えています。

職員食堂とその厨房

廣常:
売店で扱う商品については何かこだわりがあるのでしょうか?

大谷:
売店で扱うお弁当やお惣菜、食品などは、人気があれば良いというものではありませんので、病院の監修や共同開発をしたものを置いたり、健康意識の高いものをセレクトしたり、病院の食事をお弁当の形式にして販売したりと、益々充実した展開をしていきたいと考えています。

1Fの売店

宗教食への対応

廣常:
宗教食対応についてもお話をお聞かせください。宗教食対応できる病院もアジアでは淀川キリスト教病院がはじめてですよね。

大谷:
はい、そうです。ご存知の通り、この病院はキリスト教の精神に基づいた病院ですが、色々な宗教の方を尊重し、そういう方々が入院された場合でもその宗教にあわせた食事の提供ができるように準備をしています。イスラム教徒の方はイスラム法で許されている食品、「ハラール」食しか食べることができませんが、そのような食事にも対応ができるようになりました。

※ハラールとは

ハラールは、イスラム法で許された項目をいう。主にイスラム法上で食べられる物のことを表す。反対に、口にすることを禁止されている物をハラムと言い、この語は「禁じられた」という意味でハーレムと同じ語源である。イスラム法の下では豚肉を食べることは禁じられているが、その他の食品でも加工や調理に関して一定の作法が要求される。この作法が遵守された食品がハラールとされる。なお、ハラールとハラムの中間に疑わしいものシュブハという概念がある。シュブハな食品はできるだけ食べることを避けることとされている。(引用:Wikipedia)

院内にある教会

廣常:
イスラム教では豚肉を食べることが禁じられていますが、その他の食品でも加工や調理に関して一定の作法が要求されるなど、かなり制限が厳しいと聞いていますが。

大谷:
その通りです。ハラール食を作ることのできる立派な厨房もでき、認証も得られました。

廣常:
ハラールの認証を得るには、どのような手続きが必要になるのでしょうか?

大谷:
マレーシアの国で認められた、認証を与える資格のある方が実際にこちらまで来て監査を行います。監査は一度で終わるのではなく、年に一度同じ検査が続けられ、毎回基準をクリアしているかを審査されます。

この承認を受ける際、調理人は、約半日の特別講義を受ける必要があります。これはライセンスを付与されるという性格のものではありませんが、認証を得るためにはその特別講義を受講する必要があります。

廣常:
ハラール食を作る厨房と一般の厨房は、どのような違いがあるのでしょうか?

大谷:
ハラールの厨房は、他の厨房と分離して作られなければなりません。普通の食事とハラール食を明確に区別する必要があります。一切の食材や使用する機器等の交差は許されていません。人の交差も許されていません。一日のうちでハラール食を作ったり一般食を作ったりすることはできません。

また、調理に使う器具には「ハラール」と明記したり、調理機器は緑色のものを使用するように指導されたりします。

ハラール食を作る厨房

廣常:
それは結構大変ですね。

ハラール以外の新しい厨房には、どのような特徴があるのでしょうか?

厨房について

大谷:
オール電化であること、そしてベルトコンベアを使って、区域ごとに作業工程を行うようになっています。もちろんHACCPに則った厨房です。

調理室

調理室(左上:嚥下食・キザミ食)

検収室

調理室と洗瓶室

辻田:
料理人さんの中には初めて電化キッチンを使われる方もいらっしゃると思いますが、使い勝手の点でご評判はいかがでしょうか?

大谷:
調理人はもともと電化にしたかったので、快適に使うことができ、非常に喜んでいます。涼しく、清潔に使えますし、厨房の使い方、調理の方法にもすぐに慣れたと思います。ガスから電化厨房へ変更したことによるメニューへの影響も、それほど大きなものではありませんでした。

廣常:
ハラール食は、患者さんへの提供は始まっているのでしょうか?

大谷:
現段階では宗教食を希望される方がほとんどいらっしゃらないので、力を発揮できずにいます。

外食機能と給食機能を持つロイヤルホールディングスのグループ各社との連携

廣常:
少し話しは元に戻りますが、ロイヤルホールディングス株式会社は外食機能としてのロイヤルホストや給食機能としてのロイヤルコントラクトサービスなどを併せ持った企業ですが、そういうところと連携する事のメリットは、どのようなところに感じられているでしょうか?

大谷:
ロイヤルグループの中に、株式会社関西インフライトケイタリグという会社(KIC)があります。ここは、航空機内食を手がけ、関西国際空港内にもレストランを持っていますが、宗教食対応の食事も多く経験されています。まずは、このようなKICの力を導入できる、という所にメリットを感じます。またこの会社はケイタリングも行うので、様々な病院内外のイベントにも対応していただけることが分かりました。

こどもホスピス病院のオープン時には、その力が大いに発揮されました。

もう一つ大きなメリットとしては、「治療食」「職員食堂」「レストラン」「売店」の4つの部門を統合した会議を持つ事ができるという点です。会議では問題点や今後の方向性を検討していきますが、別々の会議を行った場合のような「内容の摺合せ」が必要ありません。

廣常:
確かにそれは大きなメリットですね。今後、更にどのようにロイヤルホールディングスグループさんの力を発揮させていきたいと考えていますか?

大谷:
ロイヤルの職員は、ほとんどが病院からの出向転籍です。二百数十床の二つの病院が統合されて、この新しい病院ができた訳ですが、移転するということ自体パワーを要することでした。その移転に加え、調理師たちは今まで二百食程度作れば良かったものから一気に五~六百食作る必要ができてきました。扱う機器もオペレーションも新しい中、慣れるのに少し時間がかかったという事もあります。そのような中、ロイヤルさんからの研修も短い時間しかとることができなかったので、委託する、しないに係らず、ロイヤル独自の持っている力を発揮しづらい状況であったと言えます。今後は、ロイヤルの良さ、力を十分発揮させていけるような調整を少しずつしていきたいと思います。

こどもホスピスもできましたので、新たにロイヤルの教育を受けた方たちに入っていただき、循環させて、当初の構想に対して力を発揮できるようなものにして行きたいと思っています。

こどもホスピスでのサービス、そしてキャラクターの活用 ~ホスピスでは「癒し」を、病院では「健康志向の食事」を

廣常:
ホスピスの方もロイヤルのスタッフでやるということですね。こどもホスピスでは患者の家族もいらっしゃると思いますが、そのお食事はどうされるのですか?

大谷:
ご家族も一緒に食事をできるようにしています。オーダーをいただき、部屋やデイルームで一緒に食事をしていただきます。

廣常:
こども向けのメニューも用意されているのですか?

大谷:
はい。ホスピスならではの思いを込めて、「選択メニュー」を導入しています。ホスピス患者が希望されるような、食べさせてあげたいと思うメニューを作り、六種類の中からいつでも選べるようにしています。

廣常:
今、ファミリーレストランでも、ファミリーといいながらファミリーに来ていただけないという悩みを抱えています。そこで女性や子供、ファミリー層を呼び込むことによって外食産業を復活させようという「女性と子供の心を掴むフードサービスマーケティング研究会」という研究会を行っています。その中で、アニメキャラクター業界と進めようとしているのがお子様ランチなど、キッズメニュー開発です。こどもホスピスにもキャラクターのメニューや部屋があったら子供たちに喜ばれますね。

大谷:
私たちもそのようなことを検討しています。大人のホスピスでは以前から月に一度、患者の要望になんでもお応えする食事の提供を行っていて、今後は週に一度にしようと考えています。こどもホスピスでもそのようなサービスをやりたいと思っていますが、お子さんの場合は、キャラクターのお子様ランチ的な要望が出てくるのだろうなと考えています。

廣常:
キャラクターの使用にはライセンスがあるので勝手には使えませんが、子供ホスピスであればみなさん好意的に取り組んでくれるかもしれませんね。

大谷:
「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営する病院では「ドクターズキッチン」、つまり「健康志向の食事」の提供を目指していて、ホスピスの方は「癒し」を重視したもので、少し方向性は違ってはいますが、どちらにしても食を通じてこの病院から情報発信を行っていきたいというのが私たちの願いです。

廣常:
「病院給食」「職員食堂」「外来食堂」「売店」の一体運営、宗教食対応、そして子供ホスピス開院。どれも始められたばかりで、お忙しい中の取材をありがとうございました。患者さんなどの声がこれからいろいろ寄せられてくると思いますが、その時はまた是非取材させてください。ありがとうございました。