オフィス街の昼食難民対策とキッチンカー

2013年2月26日

北米や欧州では、ファッショナブルな移動店舗と言えるキッチンカー(フードトラックやケータリングカーとも称されます)やその事業モデルが話題になっています。アメリカでは有名レストランガイドのザガット「Zagat」が、オフィス街の食事供給インフラとして、また都市観光の名所として、フードトラック部門を掲載しました。また、キッチンカーは災害時の食の供給システムとしても注目を浴びてきました。

 キッチンカーにフードサービス産業の新しい形と電化厨房の新たなチャレンジが期待されます。ケルククラブでも平成25年度の新しい研究会としてこの分野の情報提供を行って参ります。

 今回は、都内など33か所でキッチンカービジネスを展開している、株式会社ワークストア・トウキョウドゥのネオ屋台村事業部統括、石澤正芳氏にお話を伺いました。

 

●「ネオ屋台村」というビジネス

 会社の本業はイベント会場でのフードエリアのコーディネートや実際の製造販売なのですが、その中で、移動販売車に特化した「ネオ屋台村」という事業を行っています。

 オフィス街のランチ需要に対応して、ビルなどの私有地にキッチンカーを乗り入れさせていただいて販売を行います。小さい車で温かいものを提供できる対面販売の良さが売りです。

 

サンケイビルや東京国際フォーラムをはじめとして、都内に限らず千葉、埼玉など、33のエリアで小さなフードイベントを毎日やっているイメージです。出店者のスケジュールは、全て弊社が管理しています。442事業者が加盟していますが、実働しているのは200事業者くらいです。

 

スペースを提供してくださるオーナーさんには、賑わいの創出というメリットがありますし、企業が福利厚生のためにネオ屋台村を誘致するケースもあります。今のバランスでは、出店者にどんどん加盟していただくよりも、スペースオーナーに呼び掛けていきたいところです。

また、出店事業主さんのお役に立てればということで、キッチンカーの車両製作などもしています。

また、弊社自身もキッチンカーを持っているのでイベントにキッチンカーを出して直営で販売を行うこともしていますが、この直営キッチンカーはネオ屋台村には出店しません。

 ●加盟金も家賃もゼロ、売上ノルマもなし

 ネオ屋台村に加盟すると東京国際フォーラムみたいなところに出店できる、と単純に思われるかもしれませんがそういうわけでもないんです。

 出店希望者が順番待ちをしている、というのでもないんです。スペースは私どもで確保して、ネオ屋台村という事業をしている、そこへキッチンカー事業を行っていらっしゃる方に出店して頂く。そこが普通のビジネスと違うところでしょうね。

 出店者からは加盟金も家賃もいただきません。出店して売り上げが上がったら、15パーセントを弊社がいただきます。そこから家賃などの経費をビルオーナーに支払いますが、これも固定費にはせず、変動費での契約にしてもらっています。だから弊社としても利益は薄いですが堅実なビジネスになります。

 固定費を取った方が儲かるだろうという議論もありましたが、それをやると成り立たなくなっちゃうんです。固定のフィーはなしで変動フィーのみ。みなさんが売らなければ儲からない。このスタイルをずっと守ってきています。

 もし家賃を固定費でとると、売れる店はいいけど、売れない店はやっていけないんです。だからやめちゃいますよね。そうすると売れ筋の同じような店ばかりが残ってジャンルが偏ってしまって、つまらないスペースになってしまう。つまり、固定費にすると、お客さんが飽きてしまうんです。出店者さんも協力してくれなくなると思うんです。

 同じ理由で、売り上げノルマも課していません。売れなくてもいいんですよ。売れているところから払ってもらう。それに売れていないところも、これから売れるようになるかもしれませんよね。お客さんを飽きさせずに足を運んでもらう事の方が大事です。

 例えば、カレーやハンバーガーやうどんを出す店なら採算が合うかもしれないけど、コーヒーを出す店はやっていけないとする。でもスペース側としてはカレーとハンバーガーとうどんだけになったら困る。コーヒーを出す店にも残ってもらいたいんです。だからネオ屋台村は出店者から固定費を取らないし売上ノルマも課さないんです。

 たぶん、10年前くらいはアジア料理って流行ってなかったですよね。でもネオ屋台村では10年前からアジア料理はあったんです。それも固定費と売上ノルマがなかったから生き残れたんだと思います。

 

 

 いまだったら、もし加盟金をもらうようにしても、みんな払ってくれると思いますよ。東京国際フォーラムのような場所に出店できるわけですし。でも私がいる限りは固定費にはしません。2~3年の流行りで終わらせるつもりはありませんから。やはりネオ屋台村は個人の出店者の良さが受けているので、体力のある大企業だけにはしたくないんです。

 ●ネオ屋台村のメニュー構成の考え方

 同じ出店者が同じ場所に毎日出るというのはNGにしています。移動販売は「移動」できるんですから、それを最大限に生かさなければと思います。

 例えば5件のキッチンカーが入れるスペースがあるとして、平日5日間で25件の出店枠となります。その枠をいろんな出店者さんでぐるぐると回して行きます。

 カレーの出店者の加盟がいちばん多いんですけど、ひとつのネオ屋台村で1日に出店するカレー店はひとつだけとしてますから、カレー店の枠はなかなか空かないことになります。よく、何番目に出られますか?と聞かれますが、そういうやり方はしていないんです。タイミングですね。

 加盟金を取っていないので、出店できなくてもクレームにならないんです。

 出店者の稼働率としては、多いところは週5でどこかしらに出ているし、週1の事業者さんもいらっしゃいますね。たとえばケバブ屋さんやクレープ屋さんなど、軽食系の方はほとんど出られないですね。そういう人たちは普段どうしてるんでしょうかって?どうしてるんでしょうかね。心配になります。

 

だからと言って、各出店者さんのメニューをコントロールすることはしないですね。してしまったら誰かの色になってしまう。事業主さん達の個性を活かしてやってほしいんです。「クレープ始めます」っていう方がいると、大丈夫かなと心配になりますが、こちらから「焼き鳥の方がいいんじゃないですか」なんてことは言いません。それを決めるのは事業者さんですから。

 ●ネオ屋台村事業を始めたきっかけ

 始めたきっかけは、うちの社長のノリですよ。当時の弊社は直営のキッチンカー3台くらいで、従業員4人とあとはアルバイトという所帯でした。

 最初、縁あって、サンケイビルのクリスマスイベントに弊社のキッチンカーで出店したんですよ。そのときは夜の需要は無くあまり売れなかったのですが、ランチタイムなら売れるんじゃないかと考えて、ちょっとここで売らせてよ、というノリでビルオーナーに交渉して、移動販売車を集めたのがはじまりです。

最初に我々以外で参加した出店者というのは、その辺りで路上営業をしていた人たちです。同業者の横のつながりで、自然に集めることができました。我々本来の本業はイベントのフードの出店なので、我々も出店者と同様の想いがあったんです。

 オフィス街ではオフィスワーカーさんのランチ需要を考えずに町がつくられていてランチを食べるところがない、そんな中であくまで自然発生的に、路上で移動販売をするという事業者が出てくるんです。しかしそういった事業者はあまり知られてこない。メディアにもとりあげられることもありません。というか取り上げられるとまずいんです。違法駐車ですから。こんな美味しいものを出す人たちが周りにいて、だけどお巡りさんに取り締まられて営業できなくなったり、ビルの駐車場なんかのスペースが空いていても、個人事業主が貸してくれって言っても相手にしてくれない。だから、空地スペースを仲間内でシェアする仕組みをつくれないかな、とずっと考えていたんですよ。

 そんな中でサンケイビルの件があって、移動販売車がビルの敷地に入れたってことはすごいことだったんですよ。それはうちが会社組織でやってきて、実績もあったからなんだと思いますが、当時のサンケイビルの担当者の方はすごいなと思いますね。信用や実績に乏しい移動販売車によくスペースを貸したなあと。

 当初はここまで大きくなるとは考えてなくて、サンケイビルを見て、東京国際フォーラムさんが、うちもやってみよう、ということで声をかけていただいて、ノリでやってみたら案外うまくいった、というのが実情です。いろんな出会いがあって成り立ったのだと思います。

サンケイビルさんや東京国際フォーラムさんとの出会いがなかったら、キッチンカービジネス自体がまだ存在していなかったかもしれません。

 ●ネオ屋台村ブランド

 我々の社長はイベントフードを仕事にしているので、ランチタイムの定期的なキッチンカーを取りまとめる業務を担う人間がいなかったんです。そこで私が、その業務を任せてくれるならやらせてください。と言って、それまでの仕事はやめて、専念するようになったんです。正式にいつから事業部になったとかは覚えてないです。2004年頃かな。

 ネオ屋台村の構想は事業を進めながら作ってきました。

 ブランド化もちゃんとしなければということで、「ネオ屋台村」で商標も登録しました。

ただ、今となっては、「屋台」ってつけなければよかったなと少し後悔しているんです。

略されて「屋台村」ってよく言われるんですが、私は「屋台」をやっているつもりはまったくないんですよ。あくまで「ネオ屋台」があって、その「村」なんです。つまりキッチンカーの人たちの集まりなんです。

 屋台を集めてイベントをやっているっていうと、お祭りの屋台のイメージが強いですよね。「テキ屋の屋台が進化したのがネオ屋台」って言われるのもいやなんです。テキ屋さんと競合にもなっちゃいますし。

 ●ネオ屋台村の衛生管理

 保健所の申請を出した後、固定店舗なら追跡調査できますが、移動販売だとどこで何を売っているのかチェックできないし、していないと思います。普通、路上販売している業者が食中毒を出したとしても、それを追うことは難しいはずです。食べておなかが痛くなってもその店の連絡先もわからないですよね。だから以前までは移動販売車はそのあたりの危機意識が低くいいかげんになりがちだったんです。

 その点、ホームページ上で出店場所を明かしているネオ屋台村の出店者であれば安心していただいていいと思います。出店スケジュールも公開しているし、保健所のチェックも入るし、何より弊社がいちばんうるさいですから。そうでないとスペースオーナーさんも心配ですよね。

 ブランドを作って信用を得るためには、ルールをちゃんと守ってもらいます。PL保険に入ってることも確認をとりますし、定期的なの検便検査の結果報告も頂きます。

 キッチンカーのオーナーではなく、実際に現場で従事される方とコミュニケーションをとることも大事にしています。新規登録説明会にオーナーさんが来たら、実際の従事される方をつれてもう一度来て頂きます。誰が作業するのか分からない状況は怖いですから。もしもその登録されている方が体調が悪くて出られない場合には代役をたてるのではなくお休みしていただくのが基本です。

 以前に、ノロウイルスっぽい症状で、「1週間休みます」と言ってきた事業主さんがいましたが、偉いなと思いましたね。もちろん体調管理も含めて信用問題ですから、頻繁に穴をあけられると困るということもあるのですが、無理して出てきて菌をまきちらされても困りますから。

 ●震災復興支援とキッチンカー

 震災復興と言うとキッチンカーが連想されるらしく、この話題はよく聞かれます。

復興はもちろん関わっていきたいですが、プロモーションのネタになってしまうのは違うと思っています。

 復興支援に行きたい事業主さんからキッチンカーのことでいろいろと聞かれましたので、アドバイスはたくさんしました。ただし、うちが旗を振ってしまうと、行きたくない事業主に強制のようになってしまうのはよくないので、実際に関わることはしなかったんです。それに、軽自動車で東北へとか行けないですからね。途中でエンストしたりなんかしたら余計に邪魔になってしまいます。

 震災当日の帰宅難民の問題については、予め決めておければ、たとえば国際フォーラムで炊き出しを行ったりはできたかもしれないとは思っているんですよ。個人のボランティアでやるのではなくて、企業と連携して食材を出してもらうなどの取り決めがネオ屋台村でできていれば、各事業主にはクルマと人だけ出してもらう。そういう体制づくりができたら今後はいいかなと思います。それには行政とか企業の協力が必要ですけど。

 ●保健所の規定の問題

 保健衛生に関しては、昭和40年代くらいの条例がほぼそのままですよね。

3~4年前くらいに少し改正がありましたけど、その際に有識者が集まって決めるときに、弊社にヒアリングしていただけたらよかったのにと思ってます。実際の移動販売車の実情について一番知っているのは弊社だと思いますから。

 例えば、水廻りの規定ですが、そもそもキッチンカーではテイクアウトしかしないですから、食器を使いません。だから食器洗いは必要ないんですよ。それなのになんでシンクが2つか3つ必要で、水タンクも80L~200Lも必要なのか。業態に合ってないんです。

もともとは、ラーメン屋さんの名残で、どんぶりを洗うから200Lくらい必要だろうってことで決められた基準だと聞いたことがあります。今では80Lになったけど、それでも上水80Lと排水80Lのタンクを設置しなくちゃいけない。実際、申請を通すために80Lのタンクを設置はしますが、あっても満タンにして使う人は少ないでしょう。

 ●公開空地で営業させてほしい

 建築基準法で公開空地に指定されているところでは営業できないので、弊社は必ず公開空地ではなく私有地で営業しています。規制緩和をしてくれるといいんですけどね。

 土地のオーナーさんがキッチンカーを呼び込もうとしたときに、公開空地の壁に阻まれるケースは多いです。オーナーさんが御存じでないことも多い。

こういった事実を広く知っていただいて、法律、条例の改正に働きかけたいですね。公開空地って、なんでこんな作り方したんだろうって思うような無駄なスペースばっかりですから。

 公開空地で、フリーマーケットはOKだったりして、それでもキッチンカーはダメだと言われる。おかしいですよね。どちらも販売していることに違いは無いのですから。

 新しい建物を建てる際に公開空地でなく私有地を作るようにすればいいのかというと、その場合は建ぺい率を犠牲にしたりしないといけません。

逆にもっと古い建物だと、公開空地法がない時代のビルがあるのですが、空地を作らずに敷地面積いっぱいに建物を建てているとそもそも無理ですよね。

 ●火器を使用することの課題と電気自動車利用の可能性

最初にも説明しましたが、弊社は車両の製作もしているし、改造、車検のお手伝いもしています。ノウハウが蓄積されていますからお役に立てていると思います。車両製作の立場からもいくつか課題があります。

調理の熱源はプロパンやカセットコンロが多いんですが、ガソリンを積んでいる車の上で火を使っていますから危険ですよね。今は取り締まる法令がないから営業できますが、もし行政が動くようであれば移動販売車はなくなるでしょうね。

電化厨房に切り替えることができれば安全なのですが、課題もあります。日本の家庭用電源は100Vですから調理にはあまり適していません。業務用の200Vにする必要がありますが、200Vにしてしまったら車載バッテリーではもたないんじゃないかと思います。

スペースオーナーさんが200Vの電源を用意してくれたとしても、そこでしか使えないと意味がありません。キッチンカーは移動するわけですから、他の場所でも普通に200V電源があるということにならないと、事業主さんは200V対応の調理器具を導入できないということになるんじゃないかと思います。

100V電源に関しては、照明とか保温用の電源くらいは、スペースオーナーさんがOKであれば用意してもらうようにしています。発電機をまわすと音がうるさいし排ガスも出ますからね。

逆にこの問題を解決できると大きな可能性が拡がるのでしょうね。

 ●今後のビジョンや夢をお聞かせ下さい

 「移動販売車が世の中に合う形を作れる事業にしたい」と思っています。

グレーだった移動販売が少し白くできてきたから、もっとちゃんと白にしたいんです。そうして、もっともっと実力のある調理人の方が活躍できる場がつくれたらよりいいんじゃないかと。今の世の中、固定店舗だと資本金がかかり過ぎ個人ではなかなか開店できないですが、個人の小規模事業でできる移動販売車の対面販売という形を文化としても残していきたいですね。

 タクシーは民間企業のサービスですけど、公道のスペースにタクシー乗り場ってありますよね。キッチンカーも、そんな風に世間に認められて、行政がスペースを確保してくれるようになったらいいなと思います。

「移動販売もおもしろいよね」、ではなくて普通の選択肢になって、普通に認知されるようになりたいですね。珍しがられてるようじゃまだまだです。お店をやろうと思った人が、固定店舗と移動販売とどっちにしようかなと検討できるような世の中になったらいいですね。

■プロフィール
石澤 正芳 氏
株式会社ワークストア・トウキョウドゥ
ネオ屋台村事業部 統括

2004年株式会社ワークストア・トウキョウドゥ入社、キッチンカーで実際に販売を行っていたが、2003年のサンケイビルへの出店を機に、キッチンカー事業者をビル私有地等にマッチングする「ネオ屋台村」事業の立ち上げに尽力。以来、事業部統括として現在も活躍中。

■会社について
株式会社ワークストア・トウキョウドゥ
「イベント成功の鍵を握るのは、そこを訪れる人々の満足度にある」を創業以来のポリシーとし、イベント向けに特化させたオリジナルフードサービスの企画・制作・運営・販売を行っているなか、「ネオ屋台村」事業を都内など33箇所で運営している。(2013年2月時点)

設立 1998年2月
事業内容
・イベント会場における飲食エリアの企画・運営
・オリジナルフードサービスの企画・製作・販売
・ネオ屋台村の企画・運営
・ネオポンテの企画・運営
・ケータリングカーの企画
・製作・レンタル・メンテナンス

 

(インタビュー、記事作成)
株式会社新産業文化創出研究所 小林祐太