デジタルキッチンからスマートキッチンへ 『東京フードシアター5+1』から始まった進化する厨房、その先に見える新たなビジネスの可能性

2012年12月19日

近年の不景気に加え、消費者の嗜好も多様化、高度化しており、外食や給食などのフードサービス業界ではコストやサービス面での競争が激化しています。そのような中、業務の効率化は売上戦略、顧客満足度の重要なファクターとなり、経営の効率化に直結します。そこで活躍するのがIT化された厨房、デジタルキッチンです。更に、知能化し、エネルギーから在庫食材管理、レシピ送信まで進化するかしこい厨房、それがスマートキッチンです。

ケルククラブでは、フードサービス最前線や動画配信、セミナーを通して、これまでの調理の概念や技術、材料や調理器、調理士や栄養士、IT関係者の横断的コラボレーションの可能性としてデジタル(スマート)キッチンを検討していきます。範囲は厨房機器のデジタル化、IT化とネットワーク化による合理化や、安全管理、課題解決、そしてレシピなどのデジタルコンテンツ化の他、そこから先へつながるビジネスの可能性など。

その第一弾として、数多くの厨房設計、コンサルタントの実績を持つ元シニリトルジャパンで今は株式会社ループコンサルティング代表取締役の伊藤芳規氏にお話しを伺いました。秋葉原UDXで2006年から5年間に亘って行われたデジタルキッチンの実証実験プロジェクト「東京フードシアター5+1」において、同氏は開発責任者として、聞き役である新産業文化創出研究所所長 廣常啓一は総合プロデューサーとして、共にスマートキッチンの取組みを行ってきました。今回は、その「東京フードシアター5+1」の取組みと、更に進化したスマートキッチンを中心に取材します。

運営の効率化を図るためには『見える化』が必要。デジタルキッチンに期待!!

廣常
伊藤さんとは、実証実験レストラン「東京フードシアター5+1」のプロジェクトの時にご一緒させていただきました。伊藤さんといえばシニリトルジャパンとして皆さんがご存知だと思いますが、この名刺には株式会社ループコンサルティングとなっていますね。

伊藤
そうなのです。シニリトルジャパンはアメリカに本社のあるシニリトル・インターナショナル社の日本総代理店として業務を行ってきましたが、今後シニリトルジャパンは組織(事業)体系が変わりますので、別に株式会社ループコンサルティングという会社を立ち上げることにしました。シニリトルジャパンの業務内容は今までと変わりません。ループコンサルティングはシニリトルのインターナショナルパートナーという位置づけとして、飲食業態開発、市場調査、厨房設計、オペレーションの問題解決、教育研修などを行っていきます。よろしくお願いいたします。

廣常
こちらこそよろしくお願いいたします。
早速ですが、近年、外食産業の市場規模は縮小傾向にあるので、新業態への転換や運営効率を高めるなど、経営者も常にアンテナをはっておく必要がありますね。

伊藤
そうですね。外食、給食などはもともと厳しい業界ですからね。運営費カット、食材カット、食の安全安心、衛生管理、味やサービスへのこだわり・・・。経営者サイドは収益確保と安全で効率的な調理提供を常に求めます。その収益確保として、業態変更や開発であるのか、運営の効率化であるのか、海外への進出であるのか。その動きは加速しているように思います。

廣常
運営の効率を考えた場合、どうしても実務者からの情報が必要になります。効率的な作業手順、食材にかかる経費、効率的な仕入れ、など。経営者サイドだけの話しではなくなりますね。伊藤さんは、コンサルの立場上、実務者サイドのこともよくご存知だと思いますが。

伊藤
そうですね。調理現場から考えると、消費者嗜好に合わせた献立立案、食材確保、発注計画、調理フロー計画にてんてこ舞いです。当然経営者からは日々の工夫改善や収益確保のための効率化も求められているわけで。実務者は報告したくても、時間的にも制約を受けており、また勘や経験の部分が大きく、なかなか適わないわけです。
ここが運営の効率化の要となりますが、経営サイド、実務者サイドが情報を数値として共有できる『見える化』が大切だと思っています。作業を数値化し、分析する。それを作業工程におとしたり、仕入れの流通改善に活用したり。その橋渡しをするのが、キッチンのIT化だと考えます。

他業種とのコラボレーション、運用次第でビジネスチャンスの到来

廣常
そうですね。調理の量的拡大と地域的な拡大にもつながりますね。

伊藤
実際、キッチンのIT化戦略を視野に入れ、海外進出を図る大手ファーストフードもあります。

廣常
こうしたデジタルキッチン技術は、有名ブランド店やシェフのレシピとして、また健康レシピや介護レシピ、アスリートメニューなどのレシピと連動させることによって、更に運用範囲が広がります。また、レシピをデジタルコンテンツとした著作権ビジネスへの発展もあります。

伊藤
調理師の間に、レシピのデジタルコンテンツ化によるビジネスを考える動きもあります。

廣常
面白くなってきましたね。是非、今お話いただいたことも含めて、色々お話を伺いたいと思います。デジタルキッチンの可能性について取材や映像配信、セミナーなどを通して少しずつ明らかにしていきたいと思います。ご協力ください。

秋葉原UDXでの実証実験施設『東京フードシアター5+1』

廣常
今日は、そもそもデジタルキッチンとはどのようなイメージのものなのか、読者の中にはご存知ない方も多いと思いますので、私達が一緒に取り組んだ「東京フードシアター5+1」を中心に話していきたいと思います。

「東京フードシアター5+1」は2006年の3月にJR秋葉原駅前にオフィスビル「秋葉原UDX」内にオープンしました。秋葉原は戦後まもなくガード下の露天商として「電の街」として知られるようになり、家電、パソコン、エレクトロニクス、情報通信、ソフトウエアコンテンツなど時代の先端を走り続けてきましたが、今我々のオフィスが入っている秋葉原UDXはもともと「やっちゃ場」という青果市場でした。この地の利を活かした「ITと食系産業の融合」の象徴として登場したのが「東京フードシアター5+1」、いわゆるデジタルキッチンの走りともいうべきものです。今はスマートという言葉の方がぴったりしますかね。

伊藤
そうですね。今は何でもスマートという言葉が付いていますね。
「東京フードシアター5+1」には、共通の通信機能を搭載した5つの電化厨房機器群を作りました。奥に下処理を行うためのバックキッチンを1つも作りましたので、「5+1(ファイブ・プラス・ワン)」。名称にもこだわりました。厨房メーカー様には施設条件が電気であったため、電化厨房で統一しました。そして厨房稼働の見える化を行うため、機器の制御基盤プロトコルの調整を各社にお願いしました。調理運用時では、稼働状況の調査も行い、調理と消費電力の相関分析をした経緯があります。調理密度と電力消費や温熱環境の比較など、各種の調理関連のデジタル数値を比較することで、調理作業の見える化へ貢献する施設コンセプトでした。

廣常
ちなみに、その「5+1」の1(ワン)の部分が『メイン厨房』の意味であり、『惣菜コーナー』の意味であり、また『プラスα』の価値創出の意味となっています。

統合ネットワークとしてのデジタルキッチン

廣常
コンテンツのデジタル化、ネットワーク化の実証実験として「東京フードシアター5+1」を作ったわけですが、ここはある種のレコーディングスタジオのようなものですが、オーダーから調理サーブまでの様々なデータのレコーティングを可能とするコンセプトで始めましたね。

伊藤
そう。調理人の感性や経験をデジタル化するというのがこのキッチンの大きな特徴です。使用する食材の量、投入タイミング、調味料の量などの数値化するというわけですよね。しかし、調理人の味を完全に再現するのは難しいですね。使う食材や環境が違いますからね。

廣常
産地によって成分や栄養、色々なことが異なりますからね。でも、それでよいと思っています。

伊藤
それにしても、もともと調理のノウハウやレシピを公開することは、調理人にとっては好ましいことではありませんから、秋葉原の実証実験も先進的な取組み、他メーカーとのネットワークに積極的な各メーカーさんが理解してくれたことで実現に至りました。
今、私が関連している団体に「(株)フードクリエイティブサービス」という会社があります。ホテルオークラやプリンスホテル出身のシェフ軍団ですが、彼らが培ってきた技術を将来的にレシピ化し、コンテンツとしてビジネス化をしたい考えももっています。そのような調理人が増えてきており、調理人の認識が変わってきているのも事実です。

廣常
もちろんデジタル化するのですから、メニューやレシピ、調理工程などを知的財産化する必要がありますね。出版物や音楽と同様に著作権が与えられねば。ちょうど音楽業界では違法ダウンロードに関する罰則規定が定まったところですが、その課金方法も検討する必要があります。

伊藤
そうですね。実際、課金の検討に入っているところもありますが、運用方法の検討も含めて、検討事項がたくさんありますね。

運用ソフトIRMとは

廣常
職人の勘と経験をデジタル化するのに使ったソフトについて、ここでお話していただけますか?

伊藤
はい。運用ソフトとして「Intelligent Restaurant Management System(IRM)」を使用していました。調理人の勘と経験ばかりでなく、経営管理面でのサポートが可能なように様々な情報を取り込むことができます。
作業手順、加工方式、下処理や機器過熱の手順などをメニューごとに登録し、管理します。今、その活用面でも大分進んでいます。今後はPOS情報との連動により、その売り上げ予測による在庫管理、食材仕入れなど、ますます現実化、実用化できればと考えます。

廣常
様々な機器との連動、そして見える化されることによって、色々な無駄が省くことができるわけですね。
なんといっても食は暮らしの基本です。今までは食産業は生産、流通、加工、調理・提供など縦割りで発展してきました。しかしこれからは効率化という観点ばかりでなく、食の安全安心、食料自給率、健康とのかかわり、食を通した医療と家庭の連携など、広い範囲で戦略的に、そして効率的に社会を創っていく必要があります。そこにまた新たな産業が生まれたり、ビジネスの可能性、そして事業としてのサスティナビリティを求めることができます。

この続きはまた次の機会に伺いたいと思います。今日はありがとうございました。

プロフィール

伊藤 芳規
株式会社ループコンサルティング 代表取締役 Cini-Little International ビジネスパートナー

1960年 福岡県出身。信州大学大学院(生命機能・ファイバー工学)修了 博士(工学)。
大光電気系列社にて店舗用照明デザインを学ぶ。北沢産業に入社、厨房関連設備設計に従事する。その後、大日本塗料照明部 ニッポ電機にて照明デザインに参加。88年ツカモト&アソーシエイツ事務所(T&A)に参加。多数の飲食施設プロジェクトに従事。92年エーエフディーコンサルタンツ(AFD)設立に参加後、98年(株)シニリトルジャパンに入社。数多くの飲食、ホテル料飲プロジェクトを行う。現在、シニリトルジャパンの組織体系の変更により、新たに株式会社ループコンサルティングを設立。現在にいたる。