消費者に、「食の健康」における正しい情報を。そのために医療業界と飲食業界の連携に期待!!

2012年12月5日

今回は、早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 客員准教授 大野智先生にお話を伺いました。氾濫する健康食品などの情報の中から正しい情報を伝えるための手段構築、そのために必要となる医療と飲食業界の連携に話が及びました。

聞き手は新産業文化創出研究所 所長 廣常啓一です。

<写真上>早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 
        客員准教授 大野 智先生

 

「健康食品」と「機能性食品」について

 

廣常:大野先生は補完代替医療分野のご研究を深く進められていると伺っております。本日はいろいろお話を伺わせてください。

最近、巷で、「健康食品」という言葉を本当によく聞くようになりました。むしろ健康食品やサプリメントを摂ったことがないという方のほうが少ないのかもしれませんね。

「健康食品」という言葉と同時に、最近では「機能性食品」という言葉も聞かれるようになりました。そもそも「健康食品」や「機能性食品」というのはどういうものなのでしょうか?

大野:「健康食品」も「機能性食品」も明確な定義は現時点ではありません。強いて言い表すのであれば、おおまかには、両方とも『食品』という大きなカテゴリーに入り、その中で「体調調整機能」が期待されているものを一般的に「健康食品」と呼び、その健康食品の中でも科学的根拠をもっているものが「機能性食品」だとイメージして頂ければよいかと思います。個別商品ごとに安全性・有効性についてヒト臨床試験を試験が行なわれているトクホ(特定保健用食品)は、機能性食品の代表的なものになるかと思います。

 

がん患者の約二人に独りが健康食品やサプリメントを

 

廣常:なるほど、よくわかりました。このような健康食品や機能性食品ですが、健康意識の高い方、ご病気の方などは特に深い関心を寄せられているのではないかと思います。先生のご専門であるがんの患者さんなどは、治療と同時に健康食品やサプリメントを摂られたりする方も結構いらっしゃるのでしょうか?

大野先生:そうですね。厚労省研究班の調べによると、がん患者の約二人に一人は健康食品やサプリメントを摂っているとのことです。その中には、抗癌剤治療を行いながら利用している人もいるかもしれませんが、実態は良く分かっていません。

私が以前在籍していた金沢大学附属病院(薬剤部)では健康食品の利用実態について日常診療の中で確認を行う取り組みをしていましたが、このようなケースを除くと、実際のところ多くの医師は、患者の健康食品等の利用状況を掴みにくいというのが実情です。このことに関しては、患者さんは相談しづらいのか、医師に話してくれるケースがあまり多くありません。医師ともっとコミュニケーションを図っていただきければと個人的には思っているのですが。

 

廣常:確かに治療との取り合わせもあるでしょうから、医師の先生方としては患者がどのような食生活をしているかも踏まえて判断する必要もあるのでしょうしね。

ちなみにお伺いしたいのですが、がんに有効とされている健康食品などはあるのでしょうか?

大野先生:残念ながら、「がん予防に効く」、あるいは「がんの再発をふせぐ」のに確実に有効とされているものはまだありません。世界がん研究基金から「がん予防指針」というのが示されていますが、そこでも「がん予防目的の健康食品やサプリメントで推奨できるものはない」と記されています。

がんに対する予防や治療などの直接的効果が科学的に証明された食品はないというのが現状ですが、その一方で、がんの治療に伴う副作用の軽減やQOL(生活の質)を向上させるものとして、一部の食品では、その効果がヒト臨床試験で確認されたものもあります。

 

氾濫する情報の中から正しい情報を引き出すために

 

廣常:それは患者さんにとっては興味深いニュースですね。しかしせっかくそのような効果が確認されても、健康食品やサプリメントに関する情報があまりに氾濫していて、患者さんは正しい情報や有用な情報にたどり着くのが困難かもしれませんね。

大野先生:そうですね。患者さんには、情報リテラシーを持っていただく必要性を感じています。新聞、雑誌、広告、インターネット、あるいは友達からの口コミで情報が入ってきますが、最近ではいかにも効果がありそうな表現を使っているものもたくさん見受けられます。

効果効能を謳うのは薬事法や健康増進法に違反しますし、また、友達では効果があっても、それが万人に効くかどうかは分かりません。情報は「真実」「バイアス(偏り)」「偶然」「虚偽」の4つに分類されますが、偏ったもの、偶然効いたもの、意図する・しないは別にしても嘘の場合もありますから。

そのためにも、先ほどの繰り返しになりますが、医師に相談して欲しいと思います。医師に相談しづらいという場合は、看護師、薬剤師、栄養士に相談してみて下さい。特に食品と医薬品との相互作用に関しては薬剤師に聞く方が良い場合もあります。

 

消費者への伝達手段構築の必要性
~ 北海道や四国の取組み、ナチュラルメディシン・データベースの取組み事例

 

大野先生:それと同時に、消費者への新たな伝達手段を考える必要もあるのではないかと思っています。

現在私は、四国で取り組んでいる機能性食材の開発のプロジェクトに関わっています。また、北海道でも「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区」として、機能性表示制度の見直しや仕組み作りの検討もしているようです。

食品の機能性を消費者に伝えていくことは必要なことでありますが、今は薬事法や健康増進法等の規制があって、明示することは禁止されています。四国と北海道では、薬事法に抵触しない方法で消費者に伝えることはできないか、その摸索を行っています。

 

廣常:アメリカのデータベースで「ナチュラルメディシン・データベース」というのをご存知でしょうか?世界最大級の健康食品の有効性、安全性、医薬品との飲みあわせなどの研究データ、症例データを網羅しているものですが、この機関では、ニュートラルな第三者機関として、サプリメントや食品、食材における科学的根拠の評価を行っています。

機能の有効性を証明したい会社が直接的に効能を謳うのではなく、そのデータベースに消費者をアクセスさせることによって、間接的に評価するものとして使われています。

大野先生:北海道でも同じような取組みとなるようです。北海道庁が審査を行い、確認されたものをホームページなどで公開するなど、様々な仕組みを考えています。

 

消費者への伝達手段として、病院からの情報発信も
~ 医療と飲食業界のコラボレーション

 

廣常:これからは確かにこのような取組みはとても大切なパートを担うことになりますね。

食品の機能を消費者に伝えていく手段として、表示方法の問題ばかりでなく、病院から栄養や食事についての情報発信を行っていくこともできるのではないかと考えています。

例えば治療食を、病院給食以外でも外来食堂や売店で提供できるようになれば、通院患者や一般の方がそれらの食事を摂ることができるようになります。実際にそのような取組みを行っている病院も既に現れています。

 

大野先生:都内の大学病院で、病者用、健康維持・予防などを目的としたメニューを提供するレストランができているニュースを聞いたこともあります。

廣常:また、医療業界と飲食業界の異分野連携を通して、街のレストランやお惣菜屋、在宅への配膳なども行うことができるようになれば、更に良いのではないかと考えています。これからの日本の健康管理の出口を担うのは、外食や給食、中食産業など、フードサービスの業界なのではないかと。

大野先生:そうですね。それは私も大いに期待したいところです。病院の売店、街のレストラン、お惣菜店、コンビニなどで、病者用や健康維持・予防のための食品を購入できるようになれば、確かに患者にとっても望ましいことだと思います。考えてみれば、独身の方の食生活もかなりひどいようです(笑)。そのためにも、コンビニやお惣菜コーナーが充実すればいいですね。

 

美味しく楽しい食事+付加価値

 

大野先生:もう一点。治療食などは特にそうなのですが、あまり美味しくありません。患者さんのQOL(生活の質)向上のためにも、美味しく楽しく食事ができ、更に付加価値を付けることができるかどうかが、今後重要になるのではないかと思っています。

糖尿病では食事療法を行ったりしますが、先ほどもお話をしました金沢大学では、医師と管理栄養士が連携し、普段の食生活をいかに苦痛なく血糖値の改善につながるような食生活ができるかなど創意工夫を重ねながら、糖尿病内科の先生方が患者さんに指導を行なっていました。今では更に進んで、『DiET』というNPOを設立し、機関誌『バランス生活』の発行やfacebook、WEBサイトを通して、病院に通院している方だけでなく、健康な生活を志向する市民の方々、メタボリックシンドロームや生活習慣病の治療にあたる医療従事者の活動や業務のサポートのための様々な情報の発信を行っています。そのような活動の中からレシピ本などもできました。

廣常:素晴らしい取組みですね。患者さんの充実した生活、そのための美味しい食事などは私も大変重要だと考えています。病院の医師と栄養士、そして調理師が連携してメニュー開発などが出来ればと考えています。

 

海外へ視野を向けた食への取組みとして

 

廣常:美味しさと同時に、近々このフードサービス最前線でもご紹介の予定ですが、宗教食対応の食事メニューを提供する病院なども出てきています。ヘルスツーリズムの受け入れを視野に入れていて、レシピの海外輸出なども可能になりますので、これも先端的な取組みだと言えますね。

大野先生:農水省や経産省が目指すのは、人口減少を視野に入れた食における「日本ブランド」の構築で、それを海外へ持っていくことを考えています。北海道などは正にそれをやろうとしているわけですが、北海道の一番の産業である農業を基盤に、経済の活性化につなげることにもなるわけです。

これからは食の生産とそこに様々な付加価値を付けることが今後日本の大きな強みとなるのではないかと考えています。

廣常:そうですね。日本という広い視点に立つことが必要ですね。

その日本の基盤づくりのためにも、医農連携、更にサービスや流通、社会に落とすための連携も加えて、医食農商工連携が出来ればと考えています。そのためには医療機関、先生方のお力添えを是非いただきたいと考えています。飲食業界とのコラボレーションなども積極的に進めていければと思っています。是非これからもお力をお貸しください。

 

【プロフィール】

 

1998年島根医科大学(現島根大学医学部)卒業後、同大学第二外科入局。2002年同大学大学院修了(医学博士)。その後、金沢大学、大阪大学・東京女子医科大学を経て2010年4月から現職。

2010年より東京女子医科大学消化器外科非常勤講師(兼任)、早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構客員准教授(兼任)。

2005年より厚労省がん研究助成金研究班にて代替医療の研究に従事。がん患者への情報提供資料「がんの補完代替医療ガイドブック」の作成や機能性食品の科学的検証(ヒト臨床試験)に取り組む。

2012年より日本緩和医療学会ガイドライン作成委員として補完代替医療分野を担当。

現在の主な研究テーマは、腫瘍免疫学、がん免疫療法(WT1ペプチドワクチン療法)。