アレルギー疾患と食 ~生活向上のために必要とされる『アレルギー対応食』

2012年12月5日

アレルギーとひとことで言っても、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など、その症状は様々です。また、アレルギーを引き起こす原因となるものをアレルゲン(抗原)と言いますが、このアレルゲンも無数にあります。乳幼児の場合、あるいはアレルギー反応の強い場合などは稀に死に至るケースもあるので、正しい知識を持ち、適切な処置を行い、毎日の生活の中で賢く改善していく努力も必要となってきます。

<写真上>:国立病院機構福岡病院 名誉院長 
        福岡女学院看護大学 学長 
        西間 三馨(にしま さんけい)氏

長くその症状や薬と付き合っていく事の多いアレルギー。今回、西間先生からは、標準的なアレルギー治療や、学校・会社生活などの日常生活における対応、アレルギーに対応した食事メニューの必要性などについてお話しを伺いました。聞き手は新産業文化創出研究所 所長 廣常啓一。

ケルククラブでは、セミナーや調理実習、研究会を開催しながら、栄養士や調理師が連携して行う美味しいアレルギー対応食の開発、フードサービス産業との連携で実現する地域での供給の可能性を検討しながら事業化を目指します。

増えるアレルギー患者と、標準的な治療の指導

 

廣常 テレビや雑誌、薬局など至る所で「アレルギー」という言葉をたくさん見かけるようになりました。特に春や秋の花粉症の時期になると益々そのような傾向が増えますが、アレルギー患者は全体としては増加しているのでしょうか?

西間先生 はい。全体としては増加しています。アトピー性皮膚炎は、この10年で若干低下していますが、スギ花粉症や食物アレルギー、アレルギー性鼻炎などは増加傾向にあります。特に小児アレルギー疾患は増えていますね。

また、アレルギーを持っていても症状に現れていない場合も多くあります。アレルギー検査を受けてみると、思った以上に多くの抗原にアレルギー反応を示す方がいらっしゃいます。基本的には症状に現れていなければ様子をみて良いし、現れていればさらに詳しい検査や対策を講じる必要があります。

廣常 なるほど。何らかの症状が現れない限り検査をする人も少ないでしょうから、発症していない人を含めると、アレルギーを持つ方は相当数いらっしゃるということですね。

一端アレルギーの症状がでると、その症状や薬と長く付き合っていかなくてはならない場合も多いと思いますが、アレルギー治療も年々進化しているのでしょうね。

西間先生 以前と比べると格段と薬の種類、分量、使い方などの詳細が分かってきています。

例えば気管支喘息では吸入ステロイド薬に併用して、テオフィリン徐放製剤やロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性ベータ刺激薬などを使うことになります。また、アトピー性皮膚炎などでステロイド軟膏を塗布する場合なども、その量や塗り方なども効果的な方法がわかっています。

私が手がけてきた様々なガイドラインでも、患者や家族の皆さんには、まずはそのガイドに示されているような標準的な治療をやってみましょうと勧めています。それでかなりの効果は得られます。

<出典元:国立病院機構福岡病院 名誉院長 西間 三馨氏(9月26日放送『アピタルアレルギー夜間学校 【第6回】 アレルギーの薬 なんでもQ&A』の資料より>

上手く日常生活を過ごすためのポイント、本人と周りの正しい理解

 

廣常:本人や家族が参考にできるガイドラインがあるのは、患者にとってはとても頼もしいことですね。素晴らしいお取組みだと思います。アレルギー患者は、病気をコントロールしながら生活するという意識が必要なのでしょうか?

西間先生:そうですね。小児喘息なども上手くコントロールできれば、普通通りに学校生活をおくることができます。

上手くコントロールをするために必要なことは、本人やその周りが正しい知識を持つことだと考えています。先ほども話しが出ましたが、様々なガイドラインを作ってきたのも、それぞれの立場がそれぞれの状況で正しい知識を持つべきだと考えるからです。

 

廣常:学校生活を送る上で必要事項をまとめたガイドラインなども作成過程で深く関わられたとのことですが。

西間先生:はい。「学校のアレルギー疾患に対する取組みガイドライン」や「保育園におけるアレルギー対応の手引き2011」などがあります。学校生活を送る上でのポイントは、学校、医療関係者、保護者の三者の共通理解のもとにアレルギー児ひとりひとりに対応する、ということだと考えています。そこで、環境づくりで注意すべき点、それぞれのアレルギーの特徴、連携や連絡のとり方などを記載しました。

学校のアレルギー疾患に対する取組みガイドライン

保育園におけるアレルギー対応の手引き2011

廣常:確かに本人以外の周りの大人がキチンと理解する必要がありますね。

西間先生:『家族と専門医が一緒に作った小児ぜんそくハンドブック2012改訂版』というのも作りました。実際に患者や家族が知りたいと考えることを反映させた一般向けに作られた診療ガイドラインです。公募で選ばれた患者の家族と支援者が参加し、内容の構成から原稿の執筆までを担当してもらい、そこに専門医が医学的見地から助言や監修を行って完成させたものです。

患者さんがこのような形でアレルギーの本を作り上げるというのは、世界でも前例がありません。患者の日常生活のセルフケアから生活情報まで、色々な観点から書かれています。家族はどのようなことを気をつければよいか、いざという時にはどのような対応をすればよいか、安心して学校生活を送るための方法や周りからの理解の得方など。作成者の熱い思いがぎゅっと詰まったガイドブックです。

 

『家族と専門医が一緒に作った小児ぜんそくハンドブック2012改訂版』

廣常:実際に発作を起こすなど緊急の場合の対応などもあると思うので、確かに本人だけが理解しているのではなく、周りのしっかりとした理解が必要なのでしょうね。

西間:そうですね。例えば食物アレルギーはアナフィラキシーというショック症状をおこし、死に至るようなケースもあるのですが、そのショック症状があらわれた時に効く薬として「エピペン」という注射があります。これは医師でなくてもだれでも使える注射です。しかし、いくらそのような薬があっても、周りの理解や知識がないと、取り返しのつかないことも起こりえます。

食とアレルギー ~患者の生活向上を図るため、美味しい食事の提供

 

廣常:そうでしたか。私達自身が日常で注射を打つということはないことですね。食事で解決するといいのですが。ところで食物アレルギーという言葉が出てきましたので食についてもう少し詳しくお伺いしたいと思います。肝臓病など制限食を要求されている患者からは、おいしい食事を食べたいという声をよく聞きます。そこで病院給食では、栄養士と調理師がコラボして、美味しい治療食を提供するケースも出てきています。

また、院内の外来食堂や併設のレストラン、売店でも、そのようなおいしい病院給食を提供できるようになるのではないかと思っています。アレルギー疾患は通院患者さんの方が多いでしょうから、アレルギー対応のおいしい食事メニューをそのようなところで手に入れることが分かれば、利用されるでしょうか?

西間先生:少し前になりますが、私達はアレルギーの方のための料理教室などを開催していた時期があります。患者さんや家族の方に大変喜ばれました。ニーズの高さは実感として持っています。おいしいアレルギー対応食、そして外来食堂などで食べられるようになれば、確かに患者さんからも非常に喜ばれるでしょうね。

廣常:更に、街のレストランやお惣菜屋でも手に入るようになれば良いと思っています。

西間先生:それは良いですね。フードサービス業界が取扱い、街のいろいろな場所で食べられたり買ったりできればとても便利になると思います。

子供のアレルギー患者の場合、もう一つ検討しなければならないのは学校や保育園での給食です。食物アレルギーを持つお子さんが増える中、学校や保育園などで食べてはいけないものを誤食させてしまう事故も少なくありません。低年齢の子どもの3大食物アレルギーといえば、牛乳、卵、小麦ですが、気づかずに誤食させることも多いのです。また逆に、アレルギーを持つ子供の受け入れを拒否する保育園や学校給食が食べられずに登校拒否的になってしまうような、二次的な問題も出てきています。

廣常:なるほど。確かに保育園や学校給食の問題もありますね。安全でおいしいアレルギー対応食は色々な場所で必要となりますね。

西間先生:私は患者のQOL(生活の質)の向上はとても大切だと思っています。食事は毎日摂るものですから、患者さんには楽しみながら食事をしていただきたい。そのために、医師ができること、栄養士ができること、調理師ができること、それぞれの能力を発揮しながら、患者さんに美味しい食事の提供、また、アレルギー患者を増やさないための食事の提供ができれば、私もうれしいです。開発のために私も色々な先生をご紹介したいと思います。

廣常:ありがとうございます。先生、是非お力添えください。

プロフィール

九州大学医学部ご卒業後、国立療養所南福岡病院(現国立病院機構福岡病院)院長を21年間務められた。2009年からは同名誉院長に就任。日本小児アレルギー学会理事長、日本アレルギー学会理事長等を歴任。

国立病院機構福岡病院で呼吸器疾患・アレルギー疾患に特化した小児呼吸器科を創設、小児医療の向上に尽力され、人事院総裁賞を受賞された。現在も名誉院長として医療現場の第一線でご活躍。

また、数々のアレルギー分野のガイドラインを発刊、監修をされている。世界で初めて小児に特化した「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」や「アレルギー疾患診断・治療ガイドライン」など、多数。

小児アレルギー疾患総合ガイドライン2011

 

アレルギー疾患診断・治療ガイドライン 2010 

その他

インタビュー当日、医療サイトapital、新産業文化創出研究所共催で開催されたWEB講座『アピタルアレルギー夜間学校』の講師としてご出演されました。

当日の映像アーカイブは、以下のURLからご覧いただくことができます。

http://www.asahi.com/health/feature/allergynight_index.html